冷泉アート夜話「風+楽器~流れからの想像力~」レポート

開催日 2010/7/17

冷泉荘恒例のイベント、「冷泉アート夜話」。冷泉荘A41号室に事務所を構えている詩人の渡辺玄英さん主催のイベントです。今回は、音楽や楽器を研究(九州大学大学院芸術工学府藤枝研究室)しているお二人、渡辺融さん、杉山紘一郎さんが 講師です。(因みに杉山さんは冷泉荘の管理人もしています!)

テーマは、「空気の流れを巧みに取り入れた古来の楽器や音を聴くことによって、音の捉え方を考える」ことです。講師のお二人は土笛(土を様々な形に固めて笛にしたもの)とエオリアンハープ(張った弦を風の音によって鳴らす楽器)という歴史の古い楽器を専門とされています。

まず講師のお二人がお話されたのは、「音楽との付き合い方」。それはお二人の研究室のスタイ ルとも言えるでしょうか。聴きたい音を求めて創りだすのではなく、自然にあるものを受け入れ、受け入れ方法を考える。その在り方も音楽であるとのことです。一つの例として、自然から発生する音楽を紹介していただきました。

珪藻土の塊を水槽に入れて発生する泡をマイクで拾って聞くと、様々な場所からでる泡の音がいくつも重なりあうことで、低音から高温まで多重の音が重なりあいます。自然発生的に聞こえる音に、参加者の皆さんも水槽を囲んでじっと耳をすましていました。泡の音に耳をすまして音楽を感じている姿こそ、音を受け入れた姿だったと思います。

そして、話は次第にお二人の専門の楽器の話になっていきます。

話の内容はとても幅広く、実演から、それぞれの楽器の持つ原理、その歴史的背景の解説までありました。参加者の皆さんも、歴史の壮大さには驚き、原理には頭をひねり、実演には感嘆の声をあげていました。

杉山さんが専門としているエオリアンハープでは、風が弦をどう振動させて音を発生させるかといった原理の解説(これが実に科学的なのです!)から、実際になっている音を録音したものを紹介して頂きました。その音は電子音に近く、参加者の方からも「決して気持ちのいい音ではない」 と言った声も出されましたが、それはまさに風の側面を写し取ったものだからでしょう。

渡辺融さんの専門の土笛では、実際に渡辺融さんが制作した多数の土笛もあり、参加者の皆様も多様な音に驚きの声を上げていました。土笛は古代から世界各地(なんと日本、福岡にでもです!)に存在していたそうです。そこで、渡辺融さんがおっしゃっていたのは、土笛には呪術的な意味や、動物と人間をつなぐ役目を持っていたとの事でした。実際に、渡辺融さんも森で土笛を吹いていて、梟を呼び出したといったエピソードがあるそうです。

その他にも、様々な楽器を紹介していただきましたが、どの楽器も共通しているのは、空気の流れを音として感じられることです。参加者の皆様もその様々な楽器に触れて、実際に音を出していました。吹いたり、回したり、叩いたり。古代から存在する楽器で演奏し、同じ音を楽しんでいる光景は、まさしく楽器を通じて皆さんが古代と確かに繋がった瞬間だと思います。

また、一つ印象的な言葉があります。杉山さんが言った「エオリアンハープは一定の風が吹かないと鳴らない楽器。エオリアンハープの前に座り風をじっと待つことで、その周りの環境、音を感じ、受け入れることができる」という言葉です。これは「音」を聴くことで、その他のモノとも繋がっていくことができるということでしょう。

そして、講師のお二人が発する言葉、音楽によって、参加者の皆さんが驚き、歓声をあげる。それはまさしく講師の方々が話されていた楽器(=音)の持つ力を体現するものでした。一つの楽器を中心に、自然と私たち、古代と現代、そしてその場の人々が繋がっていく。その流れこそが音の持つ力なのだと感じました。

牛島 光

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